『実践 Data Science シリーズ Python ではじめる データ分析のための前処理入門』(講談社)を、出版社のご厚意でご恵贈いただきました。データの前処理からモデリングに至るまでのデータ分析の過程を体系的に解説している書籍です。
近年、生成 AI の急速な発展により、データ分析を巡る状況は大きく変わりつつあります。ChatGPT などにデータファイルをアップロードすれば、それらしく整った「分析結果」「可視化」「モデルの選定案」などが返ってくる時代です。Claude Code を立ち上げて、自然言語で指示をするだけでも「データ分析」は完了します。
そうした状況下で、果たして(紙の)書籍で体系的な知識を身につけることに、どのような意味があるかーー。そのような問いに思いを巡らせている中で、本書を読む機会を頂きました。
本書を読んで改めて感じたのは「失敗の予感」など、経験に裏打ちされた地に足のついた視点を先取りできるという点で、書籍ならではの価値があるということです。たとえば本書では前処理の重要性について、Kaggleのような競技環境でありがちな「高度な特徴量エンジニアリングを重ねればよい」という発想に対して、現実の実務では説明性・再現性などの観点が求められる場面が多いという視点を提供しています。これは、生成 AI を駆使して大量の成果物を生み出していても、他者からのフィードバックがなければ得られにくい知見だと感じました。生成 AI に「大量に特徴量を作ってください」と指示を出す以前に、より丁寧にデータを眺める重要性を実感する機会となるでしょう。分析の技術だけでなく「なぜその処理を選ぶのか」といった判断の文脈にも言及があり、実務との接続を意識した内容となっています。
一方であくまで個人的な意見ですが、もう一歩踏み込んで生成 AI との協業を前提とした情報の強弱があっても良かったかもしれません。具体的な手法自体の解説というよりは、架空の旅行代理店が舞台のストーリーに沿った手法を選ぶ場面や狙いに関する話題を豊富に読んでみたかった気もします。ただし、これは私が主要な対象読者から逸脱している点も大きいです。タイトルの『Python ではじめる データ分析のための前処理入門』も、もしかすると実務現場での知見の伝承のような、読者の得られる経験値の要素が入っても良いのかなと思いました。いくつかタイトルだけで見ると類書があり、本書の実務的な魅力が十分に伝わらず勿体ないかもしれないとの勝手な懸念があります。
とはいえ、現在のようにツール先行の学びが増える時代だからこそ、こうした実践的な知見を可視化してくれる本書のような書籍の価値は、高まっていくのではないでしょうか。自分自身で(紙の)書籍の価値を思慮する中で、良い刺激を頂く機会となりました。
