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第5回将棋電王トーナメント決勝トーナメントのYorkie辞退騒動の経緯まとめ

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経緯

  1. 決勝トーナメントのYorkie VS shotgun戦「256手ルール」の問題の発生しYorkieが敗北
  2. 運営が「ソフトの”独自性”の問題でYorkieが5位決定トーナメント以降の大会を辞退する」と発表
  3. 他ソフトの開発者がYorkieの開発者に対し「Yorkieには十分な”独自性”がある」と辞退撤回を要望
  4. 議論が紛糾するも最終的にはYorkieの開発者の意向が尊重され、Yorkieは5位決定トーナメント以降の大会を辞退

解説

大きく分けて二つの論点がありました。結論から言うと、Yorkieの開発者は1については納得し、2について十分な独自性がないと判断し、自主的に辞退したとのことです。

  1. 「256手ルール」の問題
  2. ソフトの「独自性」の問題

「256手ルール」の問題

第5回将棋電王トーナメントのルール(PDF)には、第22条として以下の規定があります。

予選リーグ、決勝トーナメント共に、256 手を超えて、対局が続く場合、立会人がどちらのソフトの負けとも判定せず、千日手でもないときは、その対局を引き分けとする。

昨日の予選リーグのPonanza VS 平成将棋合戦ぽんぽこ戦では、257手時点でPonanzaが「宣言勝ち」できる状況でしたが、上記の通称「256手ルール」が適用され、立会人の判断の元で引き分けを判定されました。

そして今日の決勝トーナメントでは、Yorkie VS shotgun戦で257手目で詰むという勝負になりました。解説者含め多くの方は昨日通りに「256手ルール」が適用され引き分け→再戦になると思いましたが、今回は(昨日とは別の)立会人の判断の元、Yorkieの負け判定が下されました。

この裁定のブレについては、さまざま議論がありましたが、Yorkieの開発者の方は「事前にルールを把握しており、256手では勝負がつかないと分かった際にも、対戦相手のshotgunの開発者と”どうなるのかなあ”と話していた」というようなコメントをしており、この件については納得しているとのことでした。

ソフトの「独自性」の問題

「256手ルール」とは別の軸で、ソフトの「独自性」の問題があります。第5回将棋電王トーナメントのルール(PDF)の第2章「参加資格」第3条には、以下の規定があります。

参加ソフトは、思考部について、自力で十分な工夫を施したものに限る。

「思考部」は以下のように定義されています。

指し手生成部、および、学習部のうち、使用可能ライブラリと定跡データを除いた部分
ただし、使用可能ライブラリを改造して用いる場合は、その改造した部分も含む

参加申し込み時点のYorkieのPR文書(PDF)では「KKPPT形式の手番ありの4駒関係」が「独自性」として記載されていました。また「その他」の部分には「なるべくconstexpr化して、コンパイラによる高速化に期待する」とも書いてありました。

運営による1の問題発生後の”独自性”確認

なぜこのタイミングだったのかが議論を紛糾させる要因だったと思います。1の問題発生後の5位決定トーナメント開始前に、運営によりYorkieの”独自性”確認が実施されたそうです。その場において、YorkieのPR文書内に記載されていた「KKPPT形式の手番ありの4駒関係」が実装に至っておらず、Yorkieは「探索部:やねうら王+評価部:elmo」という構造で、十分な独自性がないと判明。運営とYorkieの開発者の話し合いの結果、Yorkieの開発者から5位決定トーナメント以降の大会辞退の申し出があったそうです。

しかし運営からその発表があった直後、平成将棋合戦ぽんぽこの開発者を中心に「探索部を高速化している件(PR文書の「その他」に記載あり)は、十分な”独自性”ではないのか」という意見が出ました。「実際に第3回大会では、Aperyの探索部の高速化が”独自性”として認められた前例もある」と根拠を示しています。

探索部「やねうら王」の開発者のツイート

議論は続きましたが最終的には、Yorkieの開発者が「高速化には一定の独自性があると思うが、定量的な評価はできておらず、参加できる十分な”独自性”があるとは言えない」という姿勢を崩さず、辞退のまま大会が続行されることになりました。

憶測

コメントなどでは「1の問題をうやむやにするため、運営がこのタイミングでYorkieの”独自性”確認を実施し、Yorkieに辞退させようとしたのでは」という憶測が出ています。この憶測は憶測の域を出ませんが、凄く筋が通っているように見えます。

所感

個人的には、二つの問題を明確に切り分けて議論すべきだと思います。前者については、ルールの解釈問題で難しいですが、個人的には予選と同様に引き分けの処理をすべきだったと思います。そして後者については、運営が実際の大会予選開始前に、「独自性」の確認タイミングを設けなかったのが最大の問題かと思います。またそもそも論ですが、こういった強いソフトを目指す大会に「独自性」を求める規定が必要なのかも疑問です。強さだけが正義なのではないかなと。何が「独自性」かという定義も難しいですしね……。

今回浮かび上がった問題を受けてルールや運営方針を見直し、今後より良い大会として存続していってほしいと思っています。