山本・地方創生相「アメリカのいい大学は田舎にしかない」発言を可視化して検証してみた
背景と目的
朝日新聞デジタルは7月28日、山本幸三地方創生相の発言録として、以下のような内容*1を報じました。
(東京一極集中の是正に向けて東京23区内にある大学の定員を抑制する政府の方針に関連して)アメリカを見てみれば、よい大学は田舎にしかない。それで、ニューヨークやワシントンの国際競争力がなくなったことはない。ハーバード大はボストンの郊外にあり、スタンフォード大だって田舎にある。大学は田舎にあって全然問題がない。むしろいい勉強ができる。東大を(地方へ)移した方がよいくらいに思っている。
この発言に関して、ハフィントンポスト日本版(HuffPost Japan)は同日、以下の記事を公開し、山本大臣の発言を批判しました*2。
山本大臣の発言も、ハフィントンポスト日本版の批判も、残念なのは恐らく個人の憶測に基づく定性的な面でしか議論できていない点です。今回の記事では、山本大臣の「アメリカのいい大学は田舎にしかない」という発言について、可能な範囲で定量的に考えてみたいと思います。
検証内容
ここでは、今回の記事の目的のために、どのような検証をするかについて述べます。いろいろな方法があると思いますが、今回は以下を検証してみます。
「アメリカのいい大学」が東大と比べて「田舎」にあると言えるか
この検証のために、本記事では、以下のように二つの言葉を定義しました。
- アメリカのいい大学
- 田舎
1については、国(文科省)が国立大学改革の指標にも掲げる「世界大学ランキング」を基に定義したいと思います。今回は、英国の教育誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」の最新版のランキング*3を使用します。本記事では、39位の東大より上位にランクインしたアメリカの大学21校を「アメリカのいい大学」と呼ぶことにします。
2については、単純化して人口密度のみを指標とすることにしました。田舎については様々な定義があります。例えば大平ら*4は以下の要素を複合的に考慮して田舎(Rural)を定義しています。
- 想定的に人口が少ない地域
- 人口密度が低い地域
- 第一次産業従事者の居住率が高い地域
- 交通アクセスの困難さなどが存在する地域
- 現行法規にある,過疎地域自立促進特別措置法,離島振興法,山村振興法,へき地教育振興法則などで定義や指定されている地域
データセットの作成
検証のため、以下のようなデータセットを作成しました。左から行は以下の情報を有しています。
- Rank(THEランキングの順位)
- Name(大学名)
- Overall(総合評価点)
- Address(大学の所在地)
- Population Density(人口密度)
- Population(人口)
- Area(面積)
最初にTHEランキングから東大より上位の22校の総合評価点を抜き出しました。その後、Google検索の情報を基に、大学がある都市の人口密度を抽出しました。都市を跨いでキャンパスが存在する大学もありますが、ここではTHEランキングで表示されている住所を基に作成しています。人口密度については、都市別にまとまっているデータベースがなく*5、Google検索による断片的な情報をExcelにまとめることにしました。
データの可視化
まず単純に総合評価点と人口密度を2次元散布図で示すと、以下のようになります。水色はアメリカのいい大学、紺色が東大です。
[可視化のソースコード(R)]
data <- read.csv("C:\\data.csv", row.names = 1) library(ggplot2) library("ggrepel") g <- ggplot( data, aes ( x = data$PD, # 人口密度 y = data$Overall, # 総合評価点 colour = data$Country, label = rownames(data) ) ) g <- g + geom_point( size = 3 ) g <- g + geom_text_repel() g <- g + xlab("Population Density") g <- g + ylab("Overall Score in THE Ranking") g <- g + ggtitle("Relation between Population Density & Overall Score in THE Ranking") plot(g)
一見、「アメリカのいい大学」が東大と比べて「田舎」にあると言えそうです。しかし、そもそも日本の方が圧倒的に人口密度が高いことを忘れていはいけません。
そこで、日本(335.79人/km2)とアメリカ(33.7人/km2)の人口密度を同列で比較できるようにデータを正規化します。具体的には、東大の所属する文京区の人口密度を、以下のように変換しました。
data[22,2] <- data[22,2]*33.7/335.79
変換後の総合評価点と人口密度の2次元散布図を以下に示します。「アメリカのいい大学」と東大を比べても、そこまで違いがあるとは言えない結果となりました。
特に16位のコロンビア大学や32位のニューヨーク大学は、ニューヨーク州ニューヨーク市にあり、とても田舎にあるとは言えなさそうです。
おわりに
今回の記事では、山本大臣の「アメリカのいい大学は田舎にしかない」という発言について、適宜簡略化や仮定を置きながら定量的に検証しました。今回の記事の仮定の下では、東大と比べて「アメリカのいい大学は田舎にしかない」と言い切ることはできないという結果になりました。
今回の記事を通して強調したいのは「定性的な視点だけでなく大雑把な仮定を置いてでも定量的に議論してみては」ということです。定性的な視点だけだと水掛け論になってしまいがちな議論も、定量的にやろうとすると少しは具体的かつ建設的な議論になるのではないかと思います。
(例えば今回の記事で言えば「田舎を人口密度だけで定義してよいのか」「アメリカと日本の人口密度を同列で比較するためにこんな正規化でよいのか」など)
脚注
*3:www.timeshighereducation.com
*4:大平ら: 日本におけるルーラルナーシングの役割モデルについての研究, 三重県立看護大学紀要, 6, 75-84, 2002. PDFへのリンク
*5:正確にはWorld Cities Database | Simplemaps.comというサイトで有料でダウンロードできそうです